バレンタインデー
節分を過ぎると、広告は恵方巻きからチョコレートへと、一気に様変わりする。
ネット上には、可愛らしいラッピングのチョコレートが次々と出てきて、折り込み広告や通販カタログにも特集記事が躍る。
百貨店や洋菓子店の特設コーナーは、さながらお祭りのようで、嬉しそうに商品を手に取る女性客や、一緒に選んでいるカップルの姿も見受けられる。
甘いもの好きの私は、家族への贈り物を選ぼうと店舗へ足を運びつつ、自分用を買おうか買うまいかと真剣に悩む。
チョコレートの甘い誘惑と対峙して、自分にご褒美を与えるか体型維持に努めるかで、究極の選択(?)を迫られるのだ。
今回のコラムでは季節柄、バレンタインデーとその歌について触れてみたい。
バレンタインデー、つまり2月14日は、古代ローマ帝国のキリスト教司祭ウァレンティヌスの殉教の日だ。
当時禁じられていた兵士達の結婚を執り行って殉教した聖者にちなみ、後にカップルでプレゼントを贈り合う日になった。
プレゼントの内容や贈り方は国によって異なるが、女性から男性にチョコレートを贈るのは日本独自だ。
1930年代に老舗洋菓子店が出した新聞の英字広告に始まり、諸説あるものの、その後幾つかの百貨店や洋菓子店が、女性から男性に贈ろうというキャッチコピーでチョコレートを売り出し、1970年代に定着したとされている。
女性から男性に愛を告白できる日という、思わず瞳が煌めいてしまいそうな素敵な設定に勇気をもらい、チャレンジされた方は多くおられると思う。
男女どちらからでも、または同性間の告白があってもおかしくない時代にあっても、本命の相手に好きと言えるまたとないチャンスとして、バレンタインデーはまだまだ活用されそうだ。
本命チョコに託す恋心、ここから沢山の歌が生まれている。
ラブソングの定番の一つとして、バレンタインデーやチョコレートはよくモチーフに選ばれる。
1月から2月に掛けてリリースされるアイドルソングに多い印象があり、中にはチョコレートのCMソングを兼ねている場合もある。
数あるバレンタインソングの中で、私がまず思い浮かべるのは、1986年リリースの国生さゆり「バレンタイン・キッス」だ。
リリース以降、時代を越えて多くの歌手によってカバーされており、アニメ「テニスの王子様」の各キャラクター名義でも歌われている。
サビのリフレインが耳に残る、可愛らしい歌だ。
健気で一生懸命な主人公の想いが、ご自身の心と重なる事もあるだろうし、男性側からすると、こんなふうに彼女に想われたいと感じるかも知れない。
一方で、恋愛の宿命として、想いの成就を願いながらも切ない結果に終わる場合がある。
PiXMiX「チョコレート・リグレット」では、恋愛は上手くいかなかったけれど友人に支えられたという、切なくもリアルな物語が描かれており、共感する女性は少なくないはずだ。
また、女性からの本命チョコを待っている、WEST.「バレバレンタイン」や、男性から女性に贈る逆チョコを扱った、すとぷり「青春チョコレート」など、男性視点の歌もある。
皆様は、どんな歌に心を揺さぶられるだろうか。
そして、歌を創る側の目線で見た時、どんな物語を描こうとお考えになるだろうか。
相手への好意を伝える歌となると、好きだー!と盛大にぶちまけたくなって、私はつい勢い任せに書いてしまう。
書き方の一つではあるので、それ自体が悪い訳ではないと思うが、一呼吸おいての空想タイムと物語への肉付けは必須だ。
想う相手の何処が素晴らしいか、愛しくて惹かれてしまうのか。
主人公の本音は何か、相手とどんな関係性を築きたいのか、何が叶って欲しくて、何が起こったらがっかりするのか。
想いを押し付け過ぎたらサイコパスと受け取られかねないし、逆にそっけないとラブソングとして成立しなくなる。
求められる物語や主人公の設定も様々だ。
本命チョコを渡せないでいる友人に対し、背中を押してあげられるメッセージは?
もし、自分が活発なローティーンの女の子だったら?
彼女が恋しているのは自分の親友だと気付いてしまった、青年の気持ちは?
チョコレートは手作り? 高級品?
あれこれ考えを巡らせるのは、結構楽しい。
老若男女問わず、愛の告白は人生の一大事と言っても過言ではないと思う。
天に昇るか地に落ちるか、とまで行かなくても、実際にその結果から人生は何らかの変容を迎えるからだ。
新たな物語が始まる事もあれば、一つの節目が終わって学びを得る事もある。
だから、バレンタインデーは沢山の歌が生まれる下地になるのだろう。
花が咲いても散っても、全てが等しく自身の恋愛であり、人生の軌跡だ。
今まさに恋愛中という方も、既にバレンタインデーの祭りから卒業した方も、大切にしまった想い出という宝箱を、この機会にそっと開けてみてはいかがだろう。
お気に入りのラブソングを流し、傍らには是非チョコレートを。
口にして、恋の甘さを追想しながら、一時を過ごすのも素敵だと思う。
昨今のバレンタインチョコレートは、本命のみならず、友チョコ、自分チョコなど楽しみ方が広がる一方、義理チョコは減少傾向だと感じる。
職場に配るのを過剰な気遣いや義務のように感じてモヤモヤする女性陣、いただいてもホワイトデーのお返しが大変だとぼやく男性陣、それぞれの本音が透けて見える。
贈り物は大切な人にだけ、心を込めて贈れたらベスト、という事だろうか。
現実的なほろ苦い側面を噛み締めつつも、バレンタインデーはやって来る。
余談だが、甘い、とろけるような、というラブソングのフレーズを聞くと、つい実在の甘いものが恋しくなってしまう私は、断然花より団子、色気より食い気派である。
元々は企業側の販売戦略だったとしても、また、恋愛中でもそうでなくても、年に一度のイベントとして、この日を楽しめばいいではないか。
広告に乗せられていると分かっていても、敢えて乗せられてみて、普段はお目にお掛かれない華やかなお菓子の世界へ飛び込んでみたい。
足取り軽く売場へ向かった私は、甘い香りと雰囲気を満喫しつつ、結局は誘惑に負けて自分チョコをゲットしたのだった。
まるちきのこ