Bメロ



Bメロは、曲の中でいちばん感情の起伏が表れる場所だと思っている。

私にとっては、最も“エモい”部分だ。

ただ、Bメロは案外文字数が少ないことが多い。

その限られたスペースで、どれだけ感情を揺らし、物語を前に進められるか、そこに作詞家としての腕が問われるような気がしている。

多くの場合、Aメロで描いた世界や感情に“光”や“変化”を差し込むような、ほんの少し希望が見える展開をBメロに置く。

たとえば、俯いていた誰かが、少しだけ顔を上げるようなイメージだ。



少し、私自身の話をさせてほしい。

幼い頃、両親が離婚して母が再婚した。小学校に上がる頃には妹が生まれ、家庭の中に「格差」のようなものを感じるようになった。

なんとなく、自分の居場所がないと感じる日が多かった。

学校でも、いじめられていた。

小学校の高学年の頃には上履きや鉛筆を隠されるくらいで済んでいたが、中学に上がると暴力をふるわれることもあり、教室に行けなくなることもあった。

そんな時期、私を救ってくれたのが音楽だった。

ラジオ、MTV、スペースシャワーTV、ケーブルテレビのカラオケチャンネル……

新しい音楽や歌詞に触れるだけで、少し心が軽くなった。

CDを借りて、テープやMDに録音したり、テレビからラジカセで直接録音したり、歌詞カードをノートに書き写し、大切に保管したりもしていた。

今の子たちからすれば「なにそれ?」って笑われるかもしれないけれど、当時はそうしなければ借りたCDの歌詞を見返すことはできなかった。今みたいにスクショで簡単に残せる時代ではなかったのだ。

歌謡曲の歌詞が掲載された月刊誌もあって、毎月買うのが楽しみだった。



小学生の私の心を強く支えてくれた曲は

岡本真夜の「TOMORROW」、田村直美の「ゆずれない願い」だ。

「ゆずれない願い」は、人生で初めて自分のお年玉で買ったCDだった。

何年生の担任の先生だったかは覚えていないけれど、給食の時間に生徒が持ってきたCDをラジカセで流してくれる先生がいて、ゆずれない願いをかけてもらいたくて持って行ったことがあった。

ゆずれない願いのBメロは、「まだまだ自分はやれるんだ!」と背中を押してくれるようで、落ち込んだ日によく口ずさんでいた。

TOMORROW」のBメロを、当時の私はどれほど理解していたか分からない。

でも、そのフレーズに救われた気がしたし、「前を向きたい」と思わせてくれた。

小学生の頃は、忍たま乱太郎の「勇気100パーセント」を毎日夕方に聴き、元気をもらっていた。

ポケットビスケッツの「YELLOW YELLOW HAPPY」、SPEEDの「BODY & SOUL」も、元気を出したい時によく聴いた曲だ。

YELLOW YELLOW HAPPYBODYSOULは、2番のBメロの歌詞が特に好きだった。

小学高学年の私は、少し大人びた気持ちでその歌詞に浸っていた。

そしてこの頃から、自分で適当に作ったメロディーに歌詞をつけるようになった。

「いつか、自分の書いた曲を誰かに聴いてもらいたい!」そう本気で思いはじめた時期だ。

忍たま乱太郎のBメロのフレーズは、そんな夢を抱いた私を応援してくれるように感じていた。



Bメロは曲全体の中では短い部分だけれど、そのわずかな時間で聴き手の心をぐっと動かす力がある。

王道かもしれないが、私はやっぱりBメロで「俯いていた気持ちが、少しだけ前を向く」展開を意識している。

前回のAメロでも話したが、私は基本的にA→B→サビの順で作詞をすることが多いのだが、サビから書くこともある。

その場合はサビ→A→Bという順番で、サビを書いたあと「どうしてこのサビに至るのか」を考えてAメロやBメロを組み立てていく。

どの順番で書くにしても、Bメロでは“感情を揺らす”という事を大切にしている。それがベタでも、少し邪道でも、エモーショナルであることは曲に必要なスパイスだと思っている。



誰にでも、元気になりたい時、ここぞ!と言う時に聴く1曲があると思う。

そんな曲が何曲もある私は、幸せ者だと感じている。

私が落ち込んだときに聴くのは、もう何年も変わらず倖田來未の「WIND」、さユりの「ミカヅキ」、プリキュアシリーズのエンディングだ。

プリキュアのエンディングは元気になる曲ばかりで、特に好きなのが「ガンバランスdeダンス」と「You make me happy!」そして「パペピプ☆ロマンチック」だ。



WIND」は聴くたびに「本当にストレートな歌詞だな」と思う。けれど、自分がストレートな歌詞を書くとなると少し照れくさくなる。

私の性格が捻くれているせいか「これじゃ普通すぎるんじゃないか…?」と不安になることもある。

それでもやっぱり、元気になりたい時に響くのは、変化球よりも真っすぐな言葉なんだと思う。



「ミカヅキ」は対照的で、サビ前からどん底の中でもがき続けて、サビでも必死に生きる事にもがいている。

苦しくて、それでも前に進もうとしている、その必死さが胸に刺さる。

「負けたくない!」と自分を鼓舞したい時に聴く曲だ。



そしてプリキュアの3曲は自分の中のキラキラした純粋な気持ちが消えてしまいそうになる時によく聴いている。

プリキュアのように、小さな子どもたちに元気を与えられる曲の作詞がいつかできたら…。そう願い私は作詞を続けている。

プリキュアのエンディングは、上手くいかない日も「きっと平気だよ、頑張ってね!」とBメロで背中を押し、サビで一気に元気をくれる。

 

そんな曲に憧れて書いたのが、初めて採用されたアイドル事変の劇中歌「It’s All Star☆Right彡」だ。

いつかプリキュアの曲に携われたら、これ以上ない幸せだと思う。月に手を伸ばす様な夢とは分かっているけれど憧れてしまう。

だからこそ、忍たま乱太郎のBメロのフレーズに込められたメッセージ、大きな夢と冒険心を胸に、いつまでも諦めずに挑戦していきたい。



世界のどこにも自分の居場所がないと感じていた私が、音楽を通して救われたように…。

誰かの心に、ほんの少しでも“勇気”を与えられるようなBメロを書けたらと思っている。

中学と高校も不登校気味だったけれど、その度に私はメロディーに、歌詞に、支えられてきた。

音楽は私の親友でもあり、人生の教科書でもあると思っている。



少し偉そうな口ぶりで、私の作詞論を語っているが、思うように結果が上手く残せず、反省ばかりの連続なのが現実だ。作詞家に向いていないのかな、もう諦めようかな…と自暴自棄になることもある。その唐突に訪れるネガティブモードに陥っていた時、まるで小さな光が差し込むように、コラムに関するメールが届いた。



そしてサビへと続いていく。