サビ


一か八かで飛び込んだ私の作詞家人生のサビは、T&Eのオーディションに受かった時、採用された楽曲のリリースが決まった時、そしてそれを不特定多数の誰かに届けられた時だと思う。



その時の喜びをどう表せばいいのだろうか。作詞家でありながら、言葉では表現できない。まさに名曲「言葉にできない」のサビそのものだ。

私がサビで一番重要にしているのは、インパクトとキャッチーで耳に残るフレーズだ。サビからタイトルをつけることも多いが、すでに世の中にある曲と似てしまうこともある。

誰かの記憶に残る曲にするため、コンペを勝ち抜くためには、オリジナリティを出し、インパクトを残すことが大切だと思っている。

そのためにも、いち早くトレンドを取り入れるよう心がけている。新しい曲やSNSで流行っている言葉、若者が多用している言葉には常に触れていたい。

サブスク音楽配信アプリのランキング、SNSのバズり曲、今週配信された最新曲…。たとえ自分の趣味嗜好と違っても、必ず聴く時間を作っている。

それが今は昔と違いお金をかけずにできるのだから、本当に良い時代になったと思う。

最近では、メロディーや歌詞だけでなく、真似したくなる簡単な振り付けがバズる要素にもなっている。そう考えると、振りが浮かびやすい言葉選びもサビを作る上で重要かもしれない。



Pikiの「Kawaii kaiwai」も、トレンドの言葉を取り入れた踊りたくなる可愛い楽曲だ。この曲はサビの最初のフレーズがそのままタイトルになっている。

吉本おじさんfeat.雨衣の「お返事まだカナ?おじさん構文」もキャッチーで、簡単な踊りを真似したくなる。イントロからタイトルが繰り返し登場し、サビの最後にも同じフレーズが使われている。

Wurtsの「どうかしてる」もサビの頭から最後までタイトルと同じフレーズが繰り返され印象に残りやすい楽曲だ。

サビの最後がタイトルになっている曲といえば、「Choo Choo TRAIN」もそうだろう。Choo Choo TRAINはもともとZOOの楽曲で、後にEXILEとしてもリリースされた。



T&E Corporationの作詞オーディションを受けた時、課題曲の想定アーティストがEXILEだったことを今でも覚えている。

私が「作詞家のオーディションを受けてみよう!」と思ったのは、29歳の終わり頃だった。音楽の専門学校に行きたい気持ちはあったが、親に反対され叶わなかった。母や義父との確執も強く、家を早く出たいという思いから10代で結婚の道を選んだ。

娘を出産してからは、子育てとパートに追われる日々が続いたが、音楽に携わりたいという夢だけは消せずにいた。

娘が小学生になり、自分の時間が持てるようになった頃、30歳という節目を前に「夢に挑戦したい!」という気持ちが抑えられなくなった。

娘がいたことでプリキュアシリーズに出会い、昔から好きだった音ゲーやアニメ、音楽への想いも再燃した。「どうすればアニメや音楽に関われるだろう?」と考え、辿りついたのが作詞家という道だった。

当時はインターネットが一般的に普及し始めた頃でニコニコ動画で初音ミクがブームになり、誰でも手軽に楽曲を発表できる時代になっていた。

YouTubeよりもニコニコ動画の勢いが強い頃で、私はピアプロというサイトで募集されている楽曲に歌詞を書く活動を始めた。

ピアプロもコンペのような仕組みで、人気がある曲には何件も応募が集まり、その中から1曲が採用される。ただ、採用されても動画として投稿されないまま終わることもあった。

そんな中、初めてニコニコ動画に自分の歌詞がUPされ、コメントが流れてきた時の感動は今でも忘れられない。その曲ではサビの最後のフレーズからタイトルをつけた。

誰かに聴いてもらえる喜び、さらに“歌ってみた動画”で歌ってもらえた時の喜びは、「言葉にできない」以外の何物でもなかった。



その感動を知ってしまった私は、もっと多くの人に自分の曲を聴いてほしいと思うようになり、「作詞家になる方法」と検索をかけてT&E Corporationに辿りついた。

ピアプロに投稿した作品のURLと、自分の想いを綴ったメールをドキドキしながら送信した。返信と一緒に届いた課題曲はEXILE想定で、今まで書いたことのないジャンルに困惑したが、「当たって砕けろ!」の精神でなんとか完成させ提出した。

我ながら酷い出来だったと思うが、それでも準採用枠からチャンスをくださった熊谷社長には今でも感謝している。

サビはキャッチーであることが大事だが、トレンドの言葉を取り入れる時にはチャレンジ精神も必要だ。

当たって砕けろの気持ちは、これからも忘れずにいたい。もしも私の作詞家人生をテーマに歌詞を書くなら、サビ頭のフレーズもタイトルもGo for broke! になるだろう。



もちろん、サビのフレーズからタイトルが付いていない名曲も多い。

SMAPの「セロリ」や、中学生の頃に好きだったTMRevolutionの「WHITE BREATH」高校の頃によく聴いていた浜崎あゆみの「SURREAL」もそうだ。

「セロリ」はAメロでタイトルが登場するが、「WHITE BREATH」は歌詞の中にタイトルはでてこない。しかし歌詞から連想できた。

SURREAL」の意味が当時の私には分からなくて、MVのビジュアルからの連想で豹と関係あるのかな?と想像していた。熱烈なあゆファンの友達に教えてもらうまで、なぜそのタイトルなのか理解できないで聴いていた。

サビはやはりタイトルに直結する場所だ。そして感情が1番ピークに達する場所でもある。

日常の中で、極限に嬉しい時、どん底まで悲しい時、その気持ちをあなたならどう表現するだろうか?きっと簡単な言葉では到底説明できないはずだ。

だからこそ、あの名曲のサビは究極のサビなのだと改めて感じる。



そして、私がサビを作る時にもう一つ大切にしていることがある。それは「歌いたくなるかどうか」だ。

どれだけ良い歌詞でも、メロディーと合わせて口ずさみたくならなければ、ヒット曲にはなりにくい。

思わず真似したくなる言葉、何度も繰り返したくなる響き。それがサビには不可欠だと思っている。

好きな曲を思い浮かべる時、大抵の人はサビを思い出すはずだ。日常の中でふと口ずさむ時も、サビのフレーズなのではないだろうか?

だからこそ、言葉選びや語感、リズムを強く意識している。



サビが刺さる曲は、聴いた人の心の一部になれる。

何年経ってもふと口ずさんでしまうような歌詞を作れるように、これからも挑戦を続けていきたい。例え未来がどんな結末であろうとも…

Go for broke!