作曲家 須田悦弘 コラム 3 「リスナーの気持ちに寄り添った曲作り」

4「コンペ曲を作るまでの手順」  

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リスナーの気持ちに寄り添った曲作り

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先日、「いとうかなこ」さんのライブにご招待いただき、観覧して参りました。 とても素敵なライブだったのですが、そのこと自体はいずれ記させていただくといたしまし て、 今回は、いとうかなこさんの「Another Heaven」という楽曲を例に、 私がどんなことを考えながら作曲しているかを記してみようと思います。

  この楽曲は、「STEINS;GATE」という空想科学アドベンチャーゲームのエンディングテーマ曲です。 そこで私は、まずゲームをコンプリートした、その状況やプレイヤーの気持ちを想像してみました。 それも、はまりこんで、何日もぶっ続けで、昼夜無しにプレイを続けた人になりきりました。 コンプリートの瞬間から、何を想うのか。。。

  ・コントローラが効かなくなり、自分の操作から離れてキャラクターが動き始める。 ・「え、え、解いちゃった?終わっちゃった?」というドキドキとあっけなさ。

・充実感と脱力感が入り交じった感情。はじめは喜びの感情が大きい。

・しかし、だんだんと湧いてくる、目標を達成してしまった寂しさ虚しさ。

・真夜中だと思ったのに、外を見たら夜が明けはじめている。

・窓を開けたら意外に清々しい空気が部屋に入ってくる。

・これから一日がはじまるのに、もうゲームは終わってしまった。。。  

ひたすらこんな事を想像しながら、散歩したり、瞑想しながら音符をつないでいきました。 なんだかカッコいい感じになって来ましたが、決してそんなものではなく、 鼻歌を歌ったかと思えば、唸ったりしながら夜道を行ったり来たりしている、 ただの怪しいヤツなのですが。。。

  この曲に限らず、作曲が上手く出来た時は、こんな作り方をしています。他にも ・ファンはこの場面でどんな曲を聞きたがっているか、どんな展開を予想しているか。 ・ライブで演奏されたら、どのようにノって聴きたいか。 など、よく考えます。その通りに作ってみたり、期待を上回れるよう工夫したり、裏切ってみたり。 要するに、リスナーの気持ちに寄り添った曲を作れるように、心がけております (その逆が、独りよがりな曲、独りよがりな歌詞。これだけは作りたくない! このコラムが若干独りよがりになっているのが気になりますが)。  

そんなわけで、作曲中は、楽器に向かったり、理論のことを考えたり、めったにしません。 リスナーの気持ちに音で応えるためには、表情、温度、肌触りを咀嚼できている音しか作曲に使えないからです。 咀嚼するためには、普段から楽器に向かったり、理論の勉強をしたり、色んな音楽を聞いたりしなきゃな、と思ってます。 矛盾しているようですが、こんなことを考えながら作曲をしております。   次回は、話が途中になっている、時間の割り振りについて記そうと思っています。  

 

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コンペ曲を作るまでの手順

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さて、前々回(第2回) 「作曲家の守備範囲 ~作曲コンペをはじめられる方々へ」 で、作曲コンペに応募するためには、作曲そのものだけではなく、 出音まである程度、形にする必要があり、 そこには結構な作業量があることを記しました。  

今回は、〆切までどうやって時間を使って仕上げているのかを、 自分自身思い出しながら書いてみようと思います。

  まず真っ先に思い浮かぶのが、「仲間」のことです。 一人で全部こなせてしまうスーパーな作家さんもいらっしゃいますが、 私の場合、作詞家さん、ボーカルさんの存在なしに、創作活動は成り立ちません。 この感謝の気持ち、いつかご本人たちにお伝えしないといけませんね。

  さて、ドライに時間的経過を追ってみますと。 まずは曲のイメージを考えるわけです。 この時点で期限を決めると焦ってしまって精神的に良くないので、 なるべくリラックスした時に、風呂場とか、移動中、散歩中などに、 のんびりやっています。 五線譜を持ち歩いて、思いついたメロディとコード進行を、 本人にしか解読できないようなひどい状態で書きなぐります。 結果的には2時間くらいかけているんだろうと思います。  

話がそれますが、最近、移動中にスマホをやってしまうことが多く、 これはダメですね。。。作曲時間が食われるだけでなく、 目は疲れるし肩はこるし。疲れる場所がDTMと同じなんです。 でも、ついついやってしまうんです。  

元に戻りまして。 そんな状態のあと作詞家さんやボーカルさんに連絡して、 スケジュールを調整します。いつもギリギリです。 本当に申し訳ない。この気持ちもご本人たちにお伝えしないと。  

その後、パソコンに向かいまして、 メロディと、最低限のリズム・楽器隊を入れたmp3ファイルとメロ譜を作りまして、 作詞家さんにお渡しいたします。この作業は30分から1時間くらいだと思います。  

ここで大きいのは、もう一人じゃない!という安心感です。 私は心おきなく、アレンジに時間を使いつつ、詞がやってくるのを待ちます。 アレンジは、得意な分野なら半日程度、苦手な分野なら1日くらいでしょうか。 ここの時短の私なりの工夫を今回書こうと思っていたのですが、 すでに文章が相当長くなっているので、また次回以降に記します。

  詞がやってきたら、確認して、メロ譜に書き写して、 ちょっとだけ進歩したカラオケデータ、メロディデータ、 そしてメロ譜をボーカルさんにお渡しします。 ボーカルさんに来ていただいて歌を入れる事は、今はほとんどしません。 以前は来ていただく事が多かったのですが、試行錯誤した結果、 今はこのやり方になっております。いろいろありましたが。。。。割愛です。

  その補填の意味もこめて、メロ譜を作成しています。

  さて、歌がやってくる頃にはアレンジは終わっているので、 歌のタイミング修正、ピッチ修正をして、mp3ファイルに書き出して終了! といった段取りです。

  こうして改めて書いてみると、いかに作詞家さんとボーカルさんに 頼り切っているかが、見えてきますね。コラムが感謝のよい機会になりました。

  皆様いつも、すみません、そして有難うございます!